歌詳細

かき数ふ二上山に神さびて立てるつがの木本も枝も同じ常磐にはしきよし我が背の君を朝去らず逢ひて言問ひ夕されば手携はりて射水川清き川内に出で立ちて我が立ち見ればあゆの風いたくし吹けば湊には白波高み妻呼ぶと洲鳥は騒く葦刈ると海人の小船は入江漕ぐ梶の音高しそこをしもあやにともしみしのひつつ遊ぶ盛りを天皇の食す国なれば命持ち立ち別れなば後れたる君はあれども玉桙の道行く我は白雲のたなびく山を岩根踏み越え隔りなば恋しけく日の長けむそそこ思へば心し痛しほととぎす声にあへ貫く玉にもが手に巻き持ちて朝夕に見つつ行かむを置きて行かば惜し

項目 内容
番号 17-4006
漢字本文(題詞) 入京漸近、悲情難撥、述懐一首<并一絶>
漢字本文 可伎加蘇布敷多我美夜麻尒可牟佐備弖多氐流都我能奇毛等母延毛於夜自得伎波尒波之伎与之和我世乃伎美乎安佐左良受安比弖許登騰比由布佐礼婆手多豆佐波利弖伊美豆河波吉欲伎可布知尒伊泥多知弖和我多知弥礼婆安由能加是伊多久之布氣婆美奈刀尒波之良奈美多可弥都麻欲夫等須騰理波佐和久安之可流等安麻乃乎夫祢波伊里延許具加遅能於等多可之曽己乎之毛安夜尒登母志美之怒比都追安蘇夫佐香理乎須売呂伎能乎須久尒奈礼婆美許登母知多知和可礼奈婆於久礼多流吉民婆安礼騰母多麻保許乃美知由久和礼播之良久毛能多奈妣久夜麻乎伊波祢布美古要敝奈利奈婆孤悲之家久氣乃奈我家牟曽則許母倍婆許己呂志伊多思保等登芸須許恵尒安倍奴久多麻尒母我手尒麻吉毛知弖安佐欲比尒見都追由可牟乎於伎弖伊加婆乎思
読み下し文(題詞) 京に入らむこと漸く近づき、悲情撥ひ難く、懐を述べたる一首<并せて一絶>
読み下し文 かき数ふ二上山に神さびて立てるつがの木本も枝も同じ常磐にはしきよし我が背の君を朝去らず逢ひて言問ひ夕されば手携はりて射水川清き川内に出で立ちて我が立ち見ればあゆの風いたくし吹けば湊には白波高み妻呼ぶと洲鳥は騒く葦刈ると海人の小船は入江漕ぐ梶の音高しそこをしもあやにともしみしのひつつ遊ぶ盛りを天皇の食す国なれば命持ち立ち別れなば後れたる君はあれども玉桙の道行く我は白雲のたなびく山を岩根踏み越え隔りなば恋しけく日の長けむそそこ思へば心し痛しほととぎす声にあへ貫く玉にもが手に巻き持ちて朝夕に見つつ行かむを置きて行かば惜し
訓み かきかぞふふたがみやまにかむさびてたてるつがのきもともえもおやじときはにはしきよしわがせのきみをあささらずあひてことどひゆふさればてたづさはりていみづがはきよきかふちにいでたちてわがたちみればあゆのかぜいたくしふけばみなとにはしらなみたかみつまよぶとすどりはさわくあしかるとあまのをぶねはいりえこぐかぢのおとたかしそこをしもあやにともしみしのひつつあそぶさかりをすめろきのをすくになればみこともちたちわかれなばおくれたるきみはあれどもたまほこのみちゆくわれはしらくものたなびくやまをいはねふみこえへなりなばこひしけくけのながけむそそこもへばこころしいたしほととぎすこゑにあへぬくたまにもがてにまきもちてあさよひにみつつゆかむをおきていかばをし
現代語訳 一、二と数えて二つの頂をもつ二上山に、神々しくはえる栂の木の、根本も枝もひとしく変わらないように、いつも変わらず親しく思うあなたであるものを。朝も夜もつねに逢っては語り合い、手をとりあって、射水川の清らかな流れのほとりに出で立ってみると、東の風が強く吹くにつれて、水門には白波が高い。それに驚いて洲にいる鳥たちは妻を呼びあって騒ぐ。また、葦を刈るとて漁師の小舟が入江を漕いでゆく梶の音が高く聞こえる。その景色にそぞろに心ひかれて、景色をめでつつ楽しみを極めていたことだ。ところが、ここも天皇の支配なさる国なので、その命令によって都へと、あなたと別れて旅立つこととなった。風光美しいこの国に残るあなたはともかく、玉桙の道を旅ゆく私は、白雲のたなびく山を、岩踏み越えて遠ざかりゆくと、後髪をひかれる日も長いことだろう。想像するだに、心が痛む。あなたは、ほととぎすが鳴き声で合わせ通す玉であってほしい。そうしたら、わが手にその玉をまいて持っていて、朝も夜も見ながら行けるものを。あなたを残して行くのが心残りのことよ。
歌人 大伴宿禰家持 / おほとものすくねやかもち
歌人別名 少納言, 家持, 越中国守, 大伴家持, 守, 少納言, 大帳使, 家持, 主人 / せうなごん, やかもち
歌体 長歌
時代区分 第4期
部立 なし
季節
補足 大伴家持/おほとものやかもち/大伴家持
詠み込まれた地名 越中 / 富山
関連地名 【故地名】射水川
【故地名読み】いみずがわ
【現在地名】富山県
【故地説明】小矢部川(岐阜県境から出て、砺波を流れ、高岡市伏木で富山湾に注ぐ)のこと。古昔は現在の庄川も小矢部川に合流して射水川となっていた。
【故地名】二上山
【故地名読み】ふたがみやま
【現在地名】富山県高岡市
【故地説明】富山県高岡市と氷見市との間の二上山(259メートル)。山頂は高岡市。
【地名】二上山:射水川
【現在地名】富山県高岡市の北方にある山。:小矢部川。富山県西南部の大門山に発し、小矢部市を経て高岡市伏木で富山湾に注ぐ。