歌詳細

皇祖の遠き御代にもおしてる難波の国に天の下知らしめしきと今のをに絶えず言ひつつかけまくもあやに恐し神ながらわご大君のうちなびく春の初めは八千種に花咲きにほひ山見れば見のともしく川見れば見のさやけくものごとに栄ゆる時と見したまひ明らめたまひ敷きませる難波の宮は聞こし食す四方の国より奉る御調の船は堀江より水脈引きしつつ朝なぎに梶引き上り夕潮に棹さし下りあぢ群の騒き競ひて浜に出でて海原見れば白波の八重折るが上に海人小船はららに浮きて大御食に仕へ奉るとをちこちにいざり釣りけりそきだくもおぎろなきかもこきばくもゆたけきかもここ見ればうべし神代ゆ始めけらしも

項目 内容
番号 20-4360
漢字本文(題詞) 陳私拙懐一首〔并短歌〕
漢字本文 天皇乃等保伎美与尒毛於之弖流難波乃久尒〻阿米能之多之良志賣之伎等伊麻能乎尒多要受伊比都〻可氣麻久毛安夜尒可之古志可武奈我良和其大王乃宇知奈妣久春初波夜知久佐尒波奈佐伎尒保比夜麻美礼婆見能等母之久可波美礼婆見乃佐夜氣久母能其等尒佐可由流等伎登賣之多麻比安伎良米多麻比之伎麻世流難波宮者伎己之乎須四方乃久尒欲里多弖麻都流美都奇能船者保理江欲里美乎妣伎之都〻安佐奈藝尒可治比伎能保理由布之保尒佐乎佐之久太理安治牟良能佐和伎〻保比弖波麻尒伊泥弖海原見礼婆之良奈美乃夜敝乎流我宇倍尒安麻乎夫祢波良〻尒宇伎弖於保美氣尒都加倍麻都流等乎知許知尒伊射里都利家理曽伎太久毛於藝呂奈伎可毛己伎婆久母由多氣伎可母許己見礼婆宇倍之神代由波自米家良思母
読み下し文(題詞) 私に拙き懐を陳べたる一首〔并せて短歌〕
読み下し文 皇祖の遠き御代にもおしてる難波の国に天の下知らしめしきと今のをに絶えず言ひつつかけまくもあやに恐し神ながらわご大君のうちなびく春の初めは八千種に花咲きにほひ山見れば見のともしく川見れば見のさやけくものごとに栄ゆる時と見したまひ明らめたまひ敷きませる難波の宮は聞こし食す四方の国より奉る御調の船は堀江より水脈引きしつつ朝なぎに梶引き上り夕潮に棹さし下りあぢ群の騒き競ひて浜に出でて海原見れば白波の八重折るが上に海人小船はららに浮きて大御食に仕へ奉るとをちこちにいざり釣りけりそきだくもおぎろなきかもこきばくもゆたけきかもここ見ればうべし神代ゆ始めけらしも
訓み すめろきのとほきみよにもおしてるなにはのくににあめのしたしらしめしきといまのをにたえずいひつつかけまくもあやにかしこしかむながらわごおほきみのうちなびくはるのはじめはやちくさにはなさきにほひやまみればみのともしくかはみればみのさやけくものごとにさかゆるときとめしたまひあきらめたまひしきませるなにはのみやはきこしをすよものくによりたてまつるみつきのふねはほりえよりみをびきしつつあさなぎにかぢひきのぼりゆふしほにさをさしくだりあぢむらのさわききほひてはまにいでてうなはらみればしらなみのやへをるがうへにあまをぶねはららにうきておほみけにつかへまつるとをちこちにいざりつりけりそきだくもおぎろなきかもこきばくもゆたけきかもここみればうべしかみよゆはじめけらしも
現代語訳 遠い天皇の御代にも、太陽が輝く難波の国に天下を支配なさったと、現在まで絶えず言い伝えつづけ、口に出して申すのもふしぎに恐れ多い、神の身たるわが大君。霞がすべてを包む春の初めは、色とりどりに花が咲き輝き、山を見るといつも見たいと思い、川を見るとさやかに望まれ、物みなが栄えている時だと御覧になり、お心を明らかになさって支配される難波の宮よ。この宮は、支配なさる四方の国国から献上される貢物の船が堀江に水脈を引きながら、朝凪の折は楫を引いてさかのぼり、夕潮の中では棹をさし下し、あじ鴨の群のように騒ぎ争っている。堀江から浜に出て海原を見ると、白波の八重のかさなりの上に漁師の小舟が点々と浮かんで、天皇の御食事に奉仕しようとあちこちに漁をし、釣をしている。どこまでも広大なことよ。無限に豊かなことよ。これを見ると、なるほどもっともなことだ。神代から難波の宮に天下を支配なさり始めたらしいよ。
歌人 大伴宿禰家持 / おほとものすくねやかもち
歌人別名 少納言, 家持, 越中国守, 大伴家持, 守, 少納言, 大帳使, 家持, 主人 / せうなごん, やかもち
歌体 長歌
時代区分 第4期
部立 なし
季節
補足 大伴家持/おほとものやかもち/大伴家持
詠み込まれた地名 不明 / 不明
関連地名 【故地名】難波の国
【故地名読み】なにわのくに
【現在地名】大阪府
【故地説明】大阪市およびその周辺の地域。上町台地に沿った海辺を中心に難波津が営まれ、当時海内無比の要津。仁徳・孝徳・聖武の皇居も営まれた。
【故地名】難波の宮
【故地名読み】なにわのみや
【現在地名】大阪府大阪市
【故地説明】仁徳天皇の高津宮・孝徳天皇の難波長柄豊碕宮・聖武天皇の難波宮をいう。宮址はいずれも高津宮とほぼ同地。
【故地名】堀江
【故地名読み】ほりえ
【現在地名】大阪府大阪市
【故地説明】→難波堀江
【地名】難波の国:難波の宮
【現在地名】現在の大阪市およびその周辺の地域。:大阪市旧東区法円坂町(中央区大手前三丁目・四丁目、法円坂一丁目・二丁目)の一帯。