歌詳細

ひさかたの天の門開き高千穂の岳に天降りし皇祖の神の御代よりはじ弓を手握り持たし真鹿児矢を手挟み添へて大久米のますら健男を先に立て靫取り負ほせ山川を岩根さくみて踏み通り国求ぎしつつちはやぶる神を言向けまつろはぬ人をも和し掃き清め仕へ奉りてあきづ島大和の国の橿原の畝傍の宮に宮柱太知り立てて天の下知らしめしける天皇の天の日継と継ぎて来る君の御代御代隠さはぬ明き心を皇辺に極め尽くして仕へ来る祖の官と言立てて授けたまへる子孫のいや継ぎ継ぎに見る人の語り次てて聞く人の鑑にせむをあたらしき清きその名そおぼろかに心思ひて空言も祖の名絶つな大伴の氏と名に負へるますらをの伴

項目 内容
番号 20-4465
漢字本文(題詞) 喩族歌一首〔并短歌〕
漢字本文 比左加多能安麻能刀比良伎多可知保乃多氣尒阿毛理之須賣呂伎能可未能御代欲利波自由美乎多尒藝利母多之麻可胡也乎多婆左美蘇倍弖於保久米能麻須良多祁乎〻佐吉尒多弖由伎登利於保世山河乎伊波祢左久美弖布美等保利久尒麻藝之都〻知波夜夫流神乎許等牟氣麻都呂倍奴比等乎母夜波之波吉伎欲米都可倍麻都里弖安吉豆之萬夜萬登能久尒乃可之波良能受祢備乃宮尒美夜婆之良布刀之利多弖氐安米能之多之良志賣之祁流須賣呂伎能安麻能日継等都藝弖久流伎美能御代〻〻加久佐波奴安加吉許己呂乎須賣良弊尒伎波米都久之弖都加倍久流於夜能都可佐等許等太弖氐佐豆氣多麻敝流宇美乃古能伊也都藝都岐尒美流比等乃可多里都藝弖氐伎久比等能可我見尒世武乎安多良之伎吉用伎曽乃名曽於煩呂加尒己許呂於母比弖牟奈許等母於夜乃名多都奈大伴乃宇治等名尒於敝流麻須良乎能等母
読み下し文(題詞) 族に喩せる歌一首〔并せて短歌〕
読み下し文 ひさかたの天の門開き高千穂の岳に天降りし皇祖の神の御代よりはじ弓を手握り持たし真鹿児矢を手挟み添へて大久米のますら健男を先に立て靫取り負ほせ山川を岩根さくみて踏み通り国求ぎしつつちはやぶる神を言向けまつろはぬ人をも和し掃き清め仕へ奉りてあきづ島大和の国の橿原の畝傍の宮に宮柱太知り立てて天の下知らしめしける天皇の天の日継と継ぎて来る君の御代御代隠さはぬ明き心を皇辺に極め尽くして仕へ来る祖の官と言立てて授けたまへる子孫のいや継ぎ継ぎに見る人の語り次てて聞く人の鑑にせむをあたらしき清きその名そおぼろかに心思ひて空言も祖の名絶つな大伴の氏と名に負へるますらをの伴
訓み ひさかたのあまのとひらきたかちほのたけにあもりしすめろきのかみのみよよりはじゆみをたにぎりもたしまかごやをたばさみそへておほくめのますらたけををさきにたてゆきとりおほせやまかはをいはねさくみてふみとほりくにまぎしつつちはやぶるかみをことむけまつろはぬひとをもやはしはききよめつかへまつりてあきづしまやまとのくにのかしはらのうねびのみやにみやばしらふとしりたててあめのしたしらしめしけるすめろきのあまのひつぎとつぎてくるきみのみよみよかくさはぬあかきこころをすめらへにきはめつくしてつかへくるおやのつかさとことだててさづけたまへるうみのこのいやつぎつぎにみるひとのかたりつぎててきくひとのかがみにせむをあたらしききよきそのなそおぼろかにこころおもひてむなこともおやのなたつなおほとものうぢとなにおへるますらをのとも
現代語訳 ひさかたの天の戸を開き、高千穂の嶺に天降った、天皇の祖先神の昔から、わが一族は櫨弓を手に握り持ち、真鹿児矢を脇にかかえて、大久米部の勇敢な男たちを先頭に立て、靱を背に山川の岩を踏み分け踏みくだいて国土を求めつつ、ちはやぶる神を平定し、反抗する人々も従え、邪悪なものを一掃して、お仕え申して来た。また、秋津島の大和の国の橿原の畝傍の宮に、宮殿の柱をりっぱに立てて天下を支配なさった皇祖の、それ以来の御位として引き継いで来た君の御代御代に、隠しへだてなく赤心を、天皇に向けて極め尽してお仕えして来た。そうした祖先代々の役目としてことばにあげて天皇が官をお授けになるわれら子孫は、一層次々と、見る人が語りつぎ聞く人が手本にするはずのものを。惜しむべき清らかなその名であるよ。あさはかに思慮して、かりそめにも祖先の名を絶やすな。大伴を氏の名にもつ大夫たちよ。
歌人 大伴宿禰家持 / おほとものすくねやかもち
歌人別名 少納言, 家持, 越中国守, 大伴家持, 守, 少納言, 大帳使, 家持, 主人 / せうなごん, やかもち
歌体 長歌
時代区分 第4期
部立 なし
季節
補足 大伴家持/おほとものやかもち/大伴家持
詠み込まれた地名 大和 / 奈良
関連地名 【故地名】秋津島
【故地名読み】あきづしま
【故地説明】日本国および大和国の古名。「やまと」の美称としても用いる。孝安天皇「室之秋津島宮」のあった奈良県御所市大字室(旧秋津村)付近の地名が、次第に広がり、大和および日本国の総称となったか。神武紀に地名起源伝説がある。「秋つ島」(秋は実りの意)、「明つ島」の意とみる説もある。
【故地名】畝傍の宮
【故地名読み】うねびのみや
【現在地名】奈良県橿原市
【故地説明】橿原の地に営まれたと伝えられる神武天皇の皇居。明治22(1889)年地を相して橿原神宮が建てられた。
【故地名】橿原の畝傍の宮
【故地名読み】かしはらのうねびのみや
【現在地名】奈良県橿原市
【故地説明】→畝傍の宮(橿原の地に営まれたと伝えられる神武天皇の皇居。明治22(1889)年地を相して橿原神宮が建てられた。)
【故地名】高千穂の岳
【故地名読み】たかちほのたけ
【現在地名】宮崎県
【故地説明】降臨神話の山。伝説地として、(1)宮崎県西諸県郡の霧島山高千穂峰。(2)同西臼杵郡高千穂町の山がある。
【故地名】大和の国
【故地名読み】やまとのくに
【故地説明】(倭・日本)大和朝廷の勢力のおよんだ範囲をあらわす語で、奈良県天理市大和(大和神社がある)あたりの地方名から起こり、大和中央平原部、奈良県全体、近畿一帯から日本全国の総名へと発展したという。集中の歌は大和中央平原部・大和国(奈良県全体)・日本国の総名など種々に用いている。
【地名】高千穂の岳:大和国:橿原:畝傍の宮
【現在地名】宮崎県西諸県郡高原町の高千穂の峰(一五七四メートル)。:奈良県橿原市畝傍山東南の地に営まれたと言い伝える神武天皇の皇居。