歌詳細

現つ神我ご大君の天の下八島の中に国はしも多くあれども里はしもさはにあれども山並の宜しき国と川なみの立ち合ふ里と山背の鹿脊山のまに宮柱太敷きまつり高知らす布当の宮は川近み瀬の音ぞ清き山近み鳥が音とよむ秋されば山もとどろにさ雄鹿は妻呼びとよめ春されば丘辺もしじに巌には花咲きををりあなおもしろ布当の原いと貴大宮所うべしこそ我ご大君は君がまに聞したまひてさす竹の大宮ここと定めけらしも

項目 内容
番号 6-1050
漢字本文(題詞) 讃久邇新京歌二首〔并短歌〕
漢字本文 明津神吾皇之天下八嶋之中尒国者霜多雖有里者霜澤尒雖有山並之宜国跡川次之立合郷跡山代乃鹿脊山際尒宮柱太敷奉高知為布當乃宮者河近見湍音叙清山近見鳥賀鳴慟秋去者山裳動響尒左男鹿者妻呼令響春去者岡邊裳繁尒巌者花開乎呼理痛𪫧怜布當乃原甚貴大宮処諾己曽吾大君者君之随所聞賜而刺竹乃大宮此跡定異等霜
読み下し文(題詞) 久邇の新しき京を讃めたる歌二首〔并せて短歌〕
読み下し文 現つ神我ご大君の天の下八島の中に国はしも多くあれども里はしもさはにあれども山並の宜しき国と川なみの立ち合ふ里と山背の鹿脊山のまに宮柱太敷きまつり高知らす布当の宮は川近み瀬の音ぞ清き山近み鳥が音とよむ秋されば山もとどろにさ雄鹿は妻呼びとよめ春されば丘辺もしじに巌には花咲きををりあなおもしろ布当の原いと貴大宮所うべしこそ我ご大君は君がまに聞したまひてさす竹の大宮ここと定めけらしも
訓み あきつかみわごおほきみのあめのしたやしまのうちにくにはしもさはくあれどもさとはしもさはにあれどもやまなみのよろしきくにとかはなみのたちあふさととやましろのかせやまのまにみやばしらふとしきまつりたかしらすふたぎのみやはかはちかみせのとぞきよきやまちかみとりがねとよむあきさればやまもとどろにさをしかはつまよびとよめはるさればをかへもしじにいはほにははなさきををりあなおもしろふたぎのはらいとたふとおほみやどころうべしこそわごおほきみはきみがまにきかしたまひてさすたけのおほみやこことさだめけらしも
現代語訳 現し身の神であるわが大君が、天下の大八州の中に、国は多くあるのに、里はたくさんあるのに、山々も美しくつづく国として、流れゆく川々が集まりくる里として、山城の鹿背山のほとりに、大宮の柱もりっぱにお作り申して、そこに高高と君臨なさる布当の宮は、川が近いので瀬の音が清らかに聞こえる。山が近いので鳥々の声がひびく。秋になると、山もとどろくようにさ男鹿は妻を呼んで鳴き、春になると丘のほとりもいっぱいに岩には花が咲きこぼれ、ああ趣深いことだ、布当の原よ。何と貴いことだ、大宮所よ。よくぞこそ、わが大君は君のことばどおりにお聞きになって、さす竹の大宮所をここに定められたらしいよ。
歌人 田辺福麻呂之歌集 / たなべのさきまろのかしふ
歌体 長歌
時代区分 第4期
部立 雑歌
季節 なし
補足 田辺福麻呂/たなべのさきまろ/田辺福麻呂【田辺福麻呂之歌集出】
詠み込まれた地名 不明 / 不明
関連地名 【故地名】鹿背山
【故地名読み】かせやま
【現在地名】京都府相楽郡木津町
【故地説明】京都府相楽郡木津町鹿背山。木津町の東北部、木津川南岸の山。恭仁京はこの山の西の道をもって左右両京に分かたれた。
【故地名】久迩の新京
【故地名読み】くにのあたらしきみやこ
【現在地名】京都府相楽郡
【故地説明】久迩の都に同じ。(天平12(740)年12月から同16年2月までの聖武天皇の帝都。大養徳恭仁大宮ともいう。中央を東西の木津川(泉川)が貫流し、鹿背山の東は瓶原盆地、西は木津平地、南北は山に囲まれた区域、皇城は加茂町例幣を中心とする一帯、大極殿址は瓶原小学校(登大路)裏の国分寺址に土壇と礎石をのこし、皇居址はその北方小字立川の京城芝の地という。)
【故地名】布当の原
【故地名読み】ふたぎのはら
【現在地名】京都府相楽郡加茂町
【故地説明】京都府相楽郡加茂町の東方、旧瓶原村の地と同地か。→三香の原 一説に加茂町の法花寺町付近。
【故地名】布当の宮
【故地名読み】ふたぎのみや
【現在地名】京都府相楽郡加茂町
【故地説明】久迩の都のこと。→久迩の都 一説に法花寺野付近の久迩別宮。
【故地名】八島
【故地名読み】やしま
【故地説明】日本の古称。多数の島々の意から出た語。
【故地名】山背
【故地名読み】やましろ
【現在地名】京都府
【故地説明】国名。京都府の南部、京都・宇治・城陽・京田辺の四市及び乙訓・久世・綴喜・相楽の諸郡をいう。
【地名】山背:鹿脊山:布当の宮:大宮所
【現在地名】国名。京都市・宇治市・城陽市および乙訓・久世・綴喜・相楽の諸郡をいう:京都府相楽郡木津町の東北部にある山:久邇(恭仁)京の宮殿。現在、布当の位置は不明だが、旧瓶原村の地域(京都府相楽郡加茂町の木津川北岸一帯)と推定されている