歌詳細

いかといかとあるわがやどに百枝さし生ふる橘玉に貫く五月を近みあえぬがに花咲きにけり朝に日に出で見るごとに息の緒にわが思ふ妹にまそ鏡清き月夜にただ一目見するまでには散りこすなゆめと言ひつつここだくも我が守るものをうれたきや醜ほととぎす暁のうら悲しきに追へど追へどなほし来鳴きていたづらに地に散らせばすべをなみ攀ぢて手折りつ見ませ吾妹子

項目 内容
番号 8-1507
漢字本文(題詞) 大伴家持攀橘花贈坂上大嬢歌一首〔并短歌〕
漢字本文 伊加登伊可等有吾屋前尒百枝刺於布流橘玉尒貫五月乎近美安要奴我尒花咲尒家里朝尒食尒出見毎氣緒尒吾念妹尒銅鏡清月夜尒直一眼令覩麻而尒波落許須奈由米登云管幾許吾守物乎宇礼多伎也志許霍公鳥暁之裏悲尒雖追雖追尚来鳴而徒地尒令散者為便乎奈美攀而手折都見末世吾妹児
読み下し文(題詞) 大伴家持の橘の花を攀ぢて坂上大嬢に贈れる歌一首〔并せて短歌〕
読み下し文 いかといかとあるわがやどに百枝さし生ふる橘玉に貫く五月を近みあえぬがに花咲きにけり朝に日に出で見るごとに息の緒にわが思ふ妹にまそ鏡清き月夜にただ一目見するまでには散りこすなゆめと言ひつつここだくも我が守るものをうれたきや醜ほととぎす暁のうら悲しきに追へど追へどなほし来鳴きていたづらに地に散らせばすべをなみ攀ぢて手折りつ見ませ吾妹子
訓み いかといかとあるわがやどにももえさしおふるたちばなたまにぬくさつきをちかみあえぬがにはなさきにけりあさにけにいでみるごとにいきのをにわがおもふいもにまそかがみきよきつくよにただひとめみするまでにはちりこすなゆめといひつつここだくもわがもるものをうれたきやしこほととぎすあかときのうらがなしきにおへどおへどなほしきなきていたづらにつちにちらせばすべをなみよぢてたをりつみませわぎもこ
現代語訳 どのように生い育つかと楽しみにしているわが家に、枝々を伸ばして育つ橘は薬玉に貫く五月の節句も近くなったので、あふれるばかりに花が咲いたことだ。朝も昼も、出て見るたびに、命とも私の思うあなたに、真澄鏡のごとく清らかな月夜にただ一目でも見せるまではけっして散るなといいつつ、これほど大切に私が守っているものを、嘆かわしいことよ、霍公鳥めは、暁の何となく悲しい時に、追っても追ってもなおやって来て鳴いて、橘の花を地に散らしてしまうので、仕方なく引き寄せ折ったことです。御覧ください、あなたよ。
歌人 大伴宿禰家持 / おほとものすくねやかもち
歌人別名 少納言, 家持, 越中国守, 大伴家持, 守, 少納言, 大帳使, 家持, 主人 / せうなごん, やかもち
歌体 長歌
時代区分 第4期
部立 夏相聞
季節
補足 大伴家持/おほとものやかもち/大伴家持【大伴宿祢家持】
詠み込まれた地名 不明 / 不明