歌詳細

牡牛の三宅の潟にさし向かふ鹿島の崎にさ丹塗りの小船を設け玉巻きの小楫しじ貫き夕潮の満ちのとどみにみ船子を率ひ立てて呼び立てて御船出でなば浜も狭に後れ並み居て臥いまろび恋ひかも居らむ足ずりし音のみや泣かむ海上のその津をさして君が漕ぎ行かば

項目 内容
番号 9-1780
漢字本文(題詞) 鹿嶋郡苅野橋別大伴卿歌一首〔并短歌〕
漢字本文 牡牛乃三宅之滷尒指向鹿嶋之埼尒狭丹塗之小船儲玉纏之小梶繁貫夕塩之満乃登等美尒三船子呼阿騰母比立而喚立而三船出者浜毛勢尒後奈美居而反側恋香裳将居足垂之泣耳八将哭海上之其津乎指而君之己芸帰者
読み下し文(題詞) 鹿島郡の刈野の橋にして大伴卿に別れたる歌一首〔并せて短歌〕
読み下し文 牡牛の三宅の潟にさし向かふ鹿島の崎にさ丹塗りの小船を設け玉巻きの小楫しじ貫き夕潮の満ちのとどみにみ船子を率ひ立てて呼び立てて御船出でなば浜も狭に後れ並み居て臥いまろび恋ひかも居らむ足ずりし音のみや泣かむ海上のその津をさして君が漕ぎ行かば
訓み ことひうしのみやけのかたにさしむかふかしまのさきにさにぬりのをぶねをまけたままきのをかぢしじぬきゆふしほのみちのとどみにみふなこをあどもひたててよびたててみふねいでなばはまもせにおくれなみゐてこいまろびこひかもをらむあしずりしねのみやなかむうなかみのそのつをさしてきみがこぎゆかば
現代語訳 牡牛の三宅の潟に向かい合う鹿島の崎に、赤く塗った舟を揃え、りっぱに巻いた楫をたくさん貫いて、夕方の潮が満ち切った中で船頭たちを引きつれ、掛け声をかわし立ててあなたの船が出ていったなら、人々は浜も狭いほどに残っていて、ごろごろ転がりながら恋い慕うだろうか。足ずりをしながら大声に泣くだろうか。海上の方に、次の津を目ざしてあなたが漕いでいったなら。
歌人 高橋連虫麻呂之歌(集)中 / たかはしのむらじむしまろのか(しふ)ちう
歌体 長歌
時代区分 第3期
部立 相聞歌
季節 なし
補足 高橋虫麻呂/たかはしのむしまろ/高橋虫麻呂【高橋連虫麻呂之歌中】
詠み込まれた地名 常陸 / 茨城
関連地名 【故地名】海上
【故地名読み】うなかみ
【現在地名】千葉県
【故地説明】下総国(千葉県)の郡名。銚子市・海上郡の地。
【故地名】鹿島の郡
【故地名読み】かしまのこおり
【現在地名】茨城県鹿島郡
【故地説明】常陸国。茨城県鹿島郡の地。
【故地名】鹿島の崎
【故地名読み】かしまのさき
【現在地名】茨城県神栖市
【故地説明】神栖市(旧波崎町)。郡南端の岬。流海(のちに利根川の河道となる)を隔てて三宅(千葉県銚子市)と相対する。
【故地名】刈野の橋
【故地名読み】かるののはし
【現在地名】茨城県神栖市
【故地説明】刈野は茨城県神栖市の一部(旧軽野村)、同町に大字田畑字刈野(現在、水田)の名がのこる。橋の位置は未詳。神の池の水が利根川に注ぐあたりか。
【故地名】三宅の潟
【故地名読み】みやけのかた
【現在地名】千葉県銚子市
【故地説明】千葉県銚子市三宅町一帯の地。利根川をはさんで茨城県鹿島郡に対する。
【地名】三宅の潟:鹿島の崎:海上
【現在地名】三宅は千葉県銚子市三宅町の一帯の地。このカタは砂洲で海と隔てられている湖沼に意のそれであるが、ここは三宅付近の流海が鹿島の崎によって外洋の鹿島灘と隔てられているのでいったものか:茨城県鹿島郡波崎町:千葉県銚子市および現在の海上郡をさす