歌詳細
項目 | 内容 |
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番号 | 巻9-1804 |
漢字本文(題詞) | 哀弟死去作歌一首〔并短歌〕 |
漢字本文 | 父母賀成乃任尒箸向弟乃命者朝露乃銷易杵壽神之共荒競不勝而葦原乃水穂之国尒家無哉又還不来遠津国黄泉乃界丹蔓都多乃各〻向〻天雲乃別石往者闇夜成思迷匍匐所射十六乃意矣痛葦垣之思乱而春鳥能啼耳鳴乍味澤相宵晝不知蜻蜒之心所燎管悲悽別焉 |
読み下し文(題詞) | 弟の死去れるを哀しびて作れる歌一首〔并せて短歌〕 |
読み下し文 | 父母が成しのまにまに箸向かふ弟の命は朝露の消易き命神のむた争ひかねて葦原の瑞穂の国に家なみやまた帰り来ぬ遠つ国黄泉の界に延ふつたの己が向き向き天雲の別れし行けば闇夜なす思ひ迷はひ射ゆ鹿の心を痛み葦垣の思ひ乱れて春鳥の音のみ泣きつつあぢさはふ夜昼知らずかぎろひの心燃えつつ悲しび別る |
訓み | ちちははがなしのまにまにはしむかふおとのみことはあさつゆのけやすきいのちかみのむたあらそひかねてあしはらのみづほのくににいへなみやまたかへりこぬとほつくによみのさかひにはふつたのおのがむきむきあまぐものわかれしゆけばやみよなすおもひまとはひいゆししのこころをいたみあしかきのおもひみだれてはるとりのねのみなきつつあぢさはふよるひるしらずかぎろひのこころもえつつかなしびわかる |
現代語訳 | 父母が弟としてうんだままに、箸を向けあってきた弟の君は、朝露のように消えやすい命を、神のみ心としてさからいもできず、葦原の瑞穂の国に住む家がないからか、再びは帰って来ない。遠い国である黄泉の境に、蔓(つる)をのばす蔦のようにそれぞれの向きに、天雲のごとく、別れていったので、私は闇夜のように思いまよい、矢をうけた猪鹿さながらに心を悲しませ、葦垣のように思い乱れ、春鳥のごとく声たてて泣きつづけ、味ガモの群れ寄る夜昼を分かたず、かげろうをなして心も燃え、悲しみの中に別れることだ。 |
歌人 | 田辺福麻呂之歌集 / たなべのさきまろのかしふ |
歌体 | 長歌 |
時代区分 | 第4期 |
部立 | 挽歌 |
季節 | なし |
補足 | 田辺福麻呂/たなべのさきまろ/田辺福麻呂【田辺福麻呂之歌集出】 |
詠み込まれた地名 | 不明 / 不明 |
関連地名 | 【故地名】葦原の瑞穂の国 【故地名読み】あしはらのみずほのくに 【故地説明】日本国のこと。葦のよく生えた、稲穂などの瑞々しくよく実る国の意。さらにほめて「豊葦原の1500の瑞穂の国「豊葦原の瑞穂の国」とも、また単に「瑞穂の国」ともいう。 【故地名】黄泉の界 【故地名読み】よみのさかい 【故地説明】黄泉の国の境界、その地域の意。 【地名】葦原の瑞穂の国 【現在地名】古代日本の異名 |