歌詳細

秋山のしたへる妹なよ竹のとをよる児らはいかさまに思ひ居れか栲縄の長き命を露こそは朝に置きて夕は消ゆと言へ霧こそは夕に立ちて朝は失すと言へ梓弓音聞くわれもおほに見し事悔しきを敷たへの手枕まきて剣大刀身に副へ寝けむ若草のその夫の子はさぶしみか思ひて寝らむ悔しみか思ひ恋ふらむ時ならず過ぎにし児らが朝露のごと夕霧のごと

項目 内容
番号 2-217
漢字本文(題詞) 吉備津釆女死時、柿本朝臣人麻呂作歌一首〔并短歌〕
漢字本文 秋山下部留妹奈用竹乃騰遠依子等者何方尒念居可栲紲之長命乎露己曽婆朝尒置而夕者消等言霧己曽婆夕立而明者失等言梓弓音聞吾母髣髴見之事悔敷乎布栲乃手枕纏而釼刀身二副寐價牟若草其嬬子者不怜弥可念而寐良武悔弥可念戀良武時不在過去子等我朝露乃如也夕霧乃如也
読み下し文(題詞) 吉備の津の采女の死りし時に、柿本朝臣人麻呂の作れる歌一首〔并せて短歌〕
読み下し文 秋山のしたへる妹なよ竹のとをよる児らはいかさまに思ひ居れか栲縄の長き命を露こそは朝に置きて夕は消ゆと言へ霧こそは夕に立ちて朝は失すと言へ梓弓音聞くわれもおほに見し事悔しきを敷たへの手枕まきて剣大刀身に副へ寝けむ若草のその夫の子はさぶしみか思ひて寝らむ悔しみか思ひ恋ふらむ時ならず過ぎにし児らが朝露のごと夕霧のごと
訓み あきやまのしたへるいもなよたけのとをよるこらはいかさまにおもひをれかたくなはのながきいのちをつゆこそはあしたにおきてゆふへはきゆといへきりこそはゆふへにたちてあしたはうすといへあづさゆみおときくわれもおほにみしことくやしきをしきたへのたまくらまきてつるぎたちみにそへねけむわかくさのそのつまのこはさぶしみかおもひてぬらむくやしみかおもひこふらむときならずすぎにしこらがあさつゆのごとゆふぎりのごと
現代語訳 秋山の美しく色づくような妻、なよなよとした竹のようにしなやかな娘は、どう考えていたのか、栲縄のような長き命であるものを、露だったら朝おりて夕方にはもう消えるというし、霧だったら夕方に立ちこめても翌朝にはなくなってしまうというが梓の弓音のように聞いていた私もぼんやりとしか見たことがなく悔しいのに、布を重ねた枕のように手を交わしあって、剣や大刀のように体をよせて寝た若草のような夫は、今は寂しく寝ているだろうか。死を悔やんで恋い慕っているだろうか。思いがけずに死んでいったあの娘が、朝露のようで、夕霧のようで。
歌人 柿本朝臣人麻呂 / かきのもとのあそみひとまろ
歌人別名 人麻呂
歌体 長歌
時代区分 第2期
部立 挽歌
季節 なし
補足 柿本人麻呂/かきのもとのひとまろ/柿本人麻呂
詠み込まれた地名 不明 / 不明
関連地名 【故地名】吉備津
【故地名読み】きびつ
【現在地名】岡山県都窪郡
【故地説明】吉備国都宇郡、岡山県都窪郡。