歌詳細

玉桙の道に出で立ちあしひきの野行き山行きただうみの川行き渡りいさなとり海路に出でて吹く風もおほには吹かず立つ波も和には立たず恐きや神の渡りのしき波の寄する浜辺に高山を隔に置きて沖つ藻を枕にまきてうらもなく偃せる君は母父の愛子にもあらむ若草の妻もあるらむ家問へど家道も言はず名を問へど名だにも告らず誰が言をいたはしみかもとゐ波の恐き海を直渡りけむ

項目 内容
番号 13-3339
漢字本文(題詞) 或本歌
備後國神嶋濱、調使首、見屍作歌一首〔并短歌〕
漢字本文 玉桙之道尒出立葦引乃野行山行潦川往渉鯨名取海路丹出而吹風裳母穂丹者不吹立浪裳箟跡丹者不起恐耶神之渡乃敷浪乃寄浜部丹高山矣部立丹置而細藫矣枕丹巻而占裳無偃為公者母父之愛子丹裳在将稚草之妻裳有等将家問跡家道裳不云名矣問跡名谷裳不告誰之言矣労鴨腫浪能恐海矣直渉異将
読み下し文(題詞) 或本歌
或る本の歌。備後国の神島の浜にして、調使首の、屍を見て作れる歌一首〔并せて短歌〕
読み下し文 玉桙の道に出で立ちあしひきの野行き山行きただうみの川行き渡りいさなとり海路に出でて吹く風もおほには吹かず立つ波も和には立たず恐きや神の渡りのしき波の寄する浜辺に高山を隔に置きて沖つ藻を枕にまきてうらもなく偃せる君は母父の愛子にもあらむ若草の妻もあるらむ家問へど家道も言はず名を問へど名だにも告らず誰が言をいたはしみかもとゐ波の恐き海を直渡りけむ
訓み たまほこのみちにいでたちあしひきののゆきやまゆきただうみのかはゆきわたりいさなとりうなぢにいでてふくかぜもおほにはふかずたつなみものどにはたたずかしこきやかみのわたりのしきなみのよするたかやまをへだてにおきておきつもをまくらにまきてうらもなくこやせるきみはおもちちのまなごにもあらむわかくさのつまもあるらむいへとへどいへぢもいはずなをとへどなだにものらずたがことをいたとゐなみのかしこきうみをただわたりけむ
現代語訳 玉桙の道に出で立って、あしひきの野山をどんどん行き、海のごとき川を渡り越え、鯨魚をとる海路に出て、吹く風も並大抵ではなく、立つ波も穏やかには立たず、恐れ多いことよ、神の渡の、折り重なる波が寄せる浜辺に、高山を障てと置いて、海底の藻を枕として、人心もなく倒れ伏しているあなたは、母や父の愛する子でもあるだろう。若草の妻もいることだろう。家を聞いても家への道もいわず、名を聞いても名さえ告げない。誰のことばをいとしんでか、うねり立つ浪の恐ろしい海を乗り切ろうとしたのだろうか。
歌人 調使首 / つきのおみのおびと
歌体 長歌
時代区分 不明
部立 挽歌
季節 なし
補足 調使首/つきのおみおびと/
詠み込まれた地名 備後 / 岡山
関連地名 【故地名】神島の浜
【故地名読み】かみしまのはま
【現在地名】岡山県笠岡市
【故地説明】(1)岡山県笠岡市神島外浦(笠岡市南方海上の島、式内神島神社がある)。(2)神島の南の高島。(3)広島県福山市西神島町。
【故地名】神の渡
【故地名読み】かみのわたり
【現在地名】岡山県笠岡市
【故地説明】普通名詞か。地名なら神島の渡り、位置未詳。→神島
【故地名】備後国
【故地名読み】きびのみちのしりのくに
【現在地名】広島県
【故地説明】国名。広島県の東部。
【地名】不明
【現在地名】不明