歌詳細
項目 | 内容 |
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番号 | 巻17-3973 |
漢字本文(題詞) | 餘春媚日宜怜賞 上巳風光足覧遊 柳陌臨江縟服 桃源通海泛仙舟 雲罍酌桂三清湛 羽爵催人九曲流 縦酔陶心忘彼我 酩酊無處不淹留 三月四日、大伴宿祢池主 昨日述短懐、今朝耳目。更承賜書、且奉不次。死罪々々。 不遺下賎、頻恵徳音。英霊星氣。逸調過人。 智水仁山、既琳瑯之光彩、潘江陸海、自坐詩書之廊廟。 騁思非常、託情有理、七歩成章、數篇満紙。巧遣愁人之重患、能除戀者之積思。 山柿歌泉、比此如蔑。彫龍筆海、粲然得看矣。方知僕之有幸也。敬和歌。其詞云、 |
漢字本文(序文など) | 上巳名辰、暮春麗景、桃花昭瞼以分紅、柳色含苔而競緑。 于時也、携手曠望江河之畔、訪酒過野客之家。既而也、琴得性、蘭契和光。 嗟乎、今日所恨徳星已少歟。若不扣寂含章、何以逍遥之趣。 忽課短筆、聊勒四韻云尒、 |
漢字本文 | 憶保枳美能弥許等可之古美安之比奇能夜麻野佐波良受安麻射可流比奈毛乎佐牟流麻須良袁夜奈迩可母能毛布安乎尒余之奈良治伎可欲布多麻豆佐能都可比多要米也己母理古非伊枳豆伎和多利之多毛比尒奈氣可布和賀勢伊尒之敝由伊比都芸久良之余乃奈加波可受奈枳毛能曽奈具佐牟流己等母安良牟等佐刀毗等能安礼迩都具良久夜麻備尒波佐久良婆奈知利可保等利能麻奈久之婆奈久春野尒須美礼乎都牟等之路多倍乃蘇泥乎利可敝之久礼奈為能安可毛須蘇妣伎乎登売良波於毛比美太礼弖伎美麻都等宇良呉悲須奈理己許呂具志伊謝美尒由加奈許等波多奈由比 |
読み下し文(題詞) | 余春の媚日は怜賞れぶに宜く 上巳の風光は覧遊するに足る 柳陌は江に臨みて服を縟にし 桃源は海に通ひて仙舟を浮ぶ 雲罍に桂を酌みて三情を湛へ 羽爵は人を催して九曲に流る 縦酔に心を陶して彼我を忘れ 酪酊し処として淹留せぬはなし 三月四日、大伴宿禰池主 昨日短懐を述べ、今朝耳目をす。更に賜書を承り、且不次を奉る。死罪々々。 不遺下賎、頻恵徳音。英霊星氣。逸調過人。 智水仁山、既琳瑯之光彩、潘江陸海、自坐詩書之廊廟。 騁思非常、託情有理、七歩成章、數篇満紙。巧遣愁人之重患、能除戀者之積思。 山柿歌泉、比此如蔑。彫龍筆海、粲然得看矣。方知僕之有幸也。敬和歌。其詞云、 |
読み下し文(序文など) | 上巳の名辰は、暮春の麗景、桃花瞼を昭らして紅を分ち、柳色苔を含みて緑を競ふ。 時に、手を携へて曠かに江河の畔を望み、酒を訪ひてかに野客の家を過ぐ。既にして、琴性を得、蘭契光を和ぐ。 嗟乎、今日恨むるは徳星已に少きことか。若し寂を扣き章を含まずは、何を以ちてか逍遥の趣をぺむ。 忽ちに短筆に課せ、聊かに四韻を勒すとしか云ふ、 |
読み下し文 | 大君の命恐みあしひきの山野障らず天離る鄙も治むるますらをやなにか物思ふあをによし奈良道来通ふ玉梓の使絶えめや隠り恋ひ息づき渡り下思よ嘆かふ我が背いにしへゆ言ひ継ぎ来らし世の中は数なきものそ慰むることもあらむと里人の吾に告ぐらく山傍には桜花散りかほ鳥の間なくしば鳴く春の野にすみれを摘むと白たへの袖折り返し紅の赤裳裾引き娘子らは思ひ乱れて君待つとうら恋ひすなり心ぐしいざ見に行かなことはたなゆひ |
訓み | おほきみのみことかしこみあしひきのやまのさはらずあまざかるひなもをさむるますらをやなにかものもふあをによしならぢきかよふたまづさのつかひたえめやこもりこひいきづきわたりしたもひよなげかふわがせいにしへゆいひつぎくらしよのなかはかずなきものそなぐさむることもあらむとさとびとのあれにつぐらくやまびにはさくらばなちりかほとりのまなくしばなくはるののにすみれをつむとしろたへのそでをりかへしくれなゐのあかもすそびきをとめらはおもひみだれてきみまつとうらごひすなりこころぐしいざみにゆかなことはたなゆひ |
現代語訳 | 大君の御命令を尊んで、あしひきの山も野も越えて、天遠い鄙をも治める勇ましい男子たるあなたは、どうして物を思いましょう。青丹美しい奈良路へゆき来する玉梓の使いがどうして絶えましょう。家に籠って恋に苦しみ嘆息しつつ下心に嘆くわが背よ。昔から語り継いで来たように、世間はとるに足りないもののようです。私の気が安まる事もあるだろうと里の者が私に告げるには「山べには桜花が散り、郭公が絶えず鳴きしきります。春の野に菫を摘もうと、白妙の袖を折り返し、紅の赤裳の裾を引いて、少女たちは心乱れてあなたを待つとて心から恋しているようです」と。家にいることはうっとうしいことです。さあ見にいきましょう。もう事はすっかり決まっているのです。 |
歌人 | 大伴宿禰池主 / おほとものすくねいけぬし |
歌体 | 長歌 |
時代区分 | 第4期 |
部立 | なし |
季節 | 春 |
補足 | 大伴池主/おほとものいけぬし/大伴池主 |
詠み込まれた地名 | 越中 / 富山 |
関連地名 | 【故地名】奈良道 【故地名読み】ならじ 【現在地名】奈良県奈良市 【故地説明】奈良の地、奈良への往還の意。 【地名】奈良路 【現在地名】奈良の地、奈良への往還の意。 |