歌詳細
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 番号 | 巻17-3978 |
| 漢字本文(題詞) | 述戀緒歌一首〔并短歌〕 |
| 漢字本文 | 妹毛吾毛許己呂波於夜自多具敝礼登伊夜奈都可之久相見婆登許波都波奈尒情具之眼具之毛奈之尒波思家夜之安我於久豆麻大王能美許登加之古美阿之比奇能夜麻古要奴由伎安麻射加流比奈乎左米尒等別来之曽乃日乃伎波美荒璞能登之由吉我敝利春花乃宇都呂布麻泥尒相見祢婆伊多母須敝奈美之伎多倍能蘇泥可敝之都追宿夜於知受伊米尒波見礼登宇都追尒之多太尒安良祢婆孤悲之家口知敝尒都母里奴近在者加敝利尒太仁母宇知由吉氐妹我多麻久良佐之加倍氐祢天蒙許万思乎多麻保己乃路波之騰保久関左閇尒敝奈里氐安礼許曽与思恵夜之余志播安良武曽霍公鳥来鳴牟都奇尒伊都之加母波夜久奈里那牟宇乃花能尒保敝流山乎余曽能未母布里佐氣見都追淡海路尒伊由伎能里多知青丹吉奈良乃吾家尒奴要鳥能宇良奈氣之都追思多恋尒於毛比宇良夫礼可度尒多知由布氣刀比都追吾乎麻都等奈須良牟妹乎安比氐早見牟 |
| 読み下し文(題詞) | 恋の緒を述べたる歌一首〔并せて短歌〕 |
| 読み下し文 | 妹も我も心は同じ比へれどいやなつかしく相見れば常初花に心ぐしめぐしもなしにはしけやし吾が奥妻大君の命恐みあしひきの山越え野行き天離る鄙治めにと別れ来しその日の極みあらたまの年行き返り春花のうつろふまでに相見ねばいたもすべなみしきたへの袖返しつつ寝る夜落ちず夢には見れど現にし直にあらねば恋しけく千重に積りぬ近くあらば帰りにだにもうち行きて妹が手枕さし交へて寝ても来ましを玉桙の道はし遠く関さへに隔りてあれこそよしゑやしよしはあらむそほととぎす来鳴かむ月にいつしかも早くなりなむ卯の花のにほへる山をよそのみもふりさけ見つつ近江路にい行き乗り立ちあをによし奈良の吾家にぬえ鳥のうら嘆けしつつ下恋ひに思ひうらぶれ門に立ち夕占問ひつつ吾を待つと寝すらむ妹を逢ひてはや見む |
| 訓み | いももわれもこころはおやじたぐへれどいやなつかしくあひみればとこはつはなにこころぐしめぐしもなしにはしけやしあがおくづまおほきみのみことかしこみあしひきのやまこえぬゆきあまざかるひなをさめにとわかれこしそのひのきはみあらたまのとしゆきがへりはるはなのうつろふまでにあひみねばいたもすべなみしきたへのそでかへしつつぬるよおちずいめにはみれどうつつにしただにあらねばこひしけくちへにつもりぬちかくあらばかへりにだにもうちゆきていもがたまくらさしかへてねてもこましをたまほこのみちはしどほくせきさへにへなりてあれこそよしゑやしよしはあらむそほととぎすきなかむつきにいつしかもはやくなりなむうのはなのにほへるやまをよそのみもふりさけみつつあふみぢにいゆきのりたちあをによしならのわぎへにぬえどりのうらなけしつつしたごひにおもひうらぶれかどにたちゆふけとひつつあをまつとなすらむいもをあひてはやみむ |
| 現代語訳 | 妻も私も心は同じである。いっしょにいてもますます心ひかれ、顔を見るといつも初花のように珍しく、心いぶせく恋に苦しむこともなく愛らしい、わが心の奥の妻よ。大君の御命令が恐れ多く、あしひきの山を越え野を行き天遠い鄙を治めにと別れて来たその日を最後に、あらたまの年も改まり、春の花が散ってゆくまで逢うこともないので、何とも方法もなく敷栲の袖を折り返しながら寝る夜は、いつも夢には見えても直接逢うことかできないので、恋しさは幾重にも積った。都が近かったらちょっと帰ってでも行って、妹の手枕をさしかわして寝ても来ようものを、玉桙の路は遠く関所までも間を距てていることだ。ままよ、何かよい手段もあるだろう。霍公鳥が来て鳴く月になるのはいつか。早くなってほしい。卯の花の美しく咲く山を外ながらにも遠く見ながら、近江路を辿っていって、青丹美しい奈良のわが家に到り、ぬえ鳥のように下心に嘆きつつ、心の中の恋に佗しく思いつつ門に出ては、夕占を問いながら私を待って寝ているだろう妻に、早く逢いたいものだ。 |
| 歌人 | 大伴宿禰家持 / おほとものすくねやかもち |
| 歌人別名 | 少納言, 家持, 越中国守, 大伴家持, 守, 少納言, 大帳使, 家持, 主人 / せうなごん, やかもち |
| 歌体 | 長歌 |
| 時代区分 | 第４期 |
| 部立 | なし |
| 季節 | 春 |
| 補足 | 大伴家持/おほとものやかもち/大伴家持 |
| 詠み込まれた地名 | 越中 / 富山 |
| 関連地名 | 【故地名】近江道 【故地名読み】おおみじ 【現在地名】滋賀県 【故地説明】近江地方の意｡県は六世紀ごろ全国的に設けられた行政区画の名､朝廷の御料地ともいわれる｡県廃止後もその称が残り､単に地方の意で用いられた｡ 【故地名】奈良 【故地名読み】なら 【現在地名】奈良県奈良市 【故地説明】奈良市を中心に､東の春日･高円の連山･北の奈良山･西の生駒山に囲まれた奈良盆地北部の地｡元明天皇和銅三(710)年以降70余年間､平城京のいとなまれた所｡ 【地名】奈良:近江路 【現在地名】ほぼ今日の奈良市に当る。：近江へ向かう道。 |