歌詳細

心には緩ふことなく須加の山すかなくのみや恋ひ渡りなむ

項目 内容
番号 17-4015
漢字本文 情尒波由流布許等奈久須加能夜麻須可奈久能未也孤悲和多利奈牟
漢字本文(左注) 右、射水郡古江村取獲蒼鷹。形容美麗、鷙雉秀群也。於時養吏山田史君麻呂、調試失節、野乖候。
搏風之翅、高翔匿雲、腐鼠之餌、呼留靡驗。於是、張設羅網、窺乎非常、奉幣神祇、恃乎不虞也。
粤以夢裏有娘子。喩曰、使君、勿作苦念空費精神。放逸彼鷹、獲得未幾矣哉。須臾覺寤、有悦於懐。
因作却恨之歌、式旌感信。
守大伴宿祢家持[九月廿六日作也]
読み下し文 心には緩ふことなく須加の山すかなくのみや恋ひ渡りなむ
読み下し文(左注) 右は、射水郡の古江村に蒼鷹を取り獲たり。形容美麗しくして、雉を鷙ること群に秀れたり。時に、養吏山田史君麻呂、調試節を失ひ、野猟候を乖く。
搏風の翅は高く翔りて雲に匿り、腐鼠の餌は、呼び留むるに験靡し。ここに、羅網を張り設けて、非常を窺ひ、神祇に幣を奉りて不虞を恃む。
粤に夢の裏に娘子あり。喩へて曰はく「使君、苦念を作して空しく精神をな費しそ。放逸せるその鷹は、獲り得むこと幾もあらじ」といふ。須臾に覚寤き、懐に悦あり。
因りて恨を却く歌を作りて、式ちて感信を旌せり。
守大伴宿祢家持[九月二十六日の作なり。]
訓み こころにはゆるふことなくすかのやますかなくのみやこひわたりなむ
現代語訳 わが心の内に思いゆるむこともなく、須加の山の名のごとく「すかなく」――心楽しまず恋い続けることだろうか。
現代語訳(左注) 右は、射水郡の古江村で蒼鷹を捕獲した。その鳥の姿はりっぱで、雉を獲る技は抜群であった。ところが、ある時飼育役の山田史君麿が訓練の時節を誤り、野の狩を時ならずしてしまった。
逃げた鷹は風を打つ翼も高々と翔り去って雲の中に入り、鷹は腐鼠の餌など食べないから呼び戻す方法がない。そこで鳥網を張って万一を期待し、神々に幣を捧げて僥倖(ぎょうこう)を祈った。
その時、夢の中に少女が現われ、告げて言うには、「国守の君よ、苦しんで徒らに心をわずらわせないでください。逃げた鷹をまた捉えることは、近々できるでしょう」と言った。ほんの僅かの間で目をさまし、心中大いに喜んだ。
よって恨めしさを払う歌を作り、もって感応の効果を明らかにしようとした。
国守、大伴宿禰家持。九月二十六日の作。
歌人 大伴宿禰家持 / おほとものすくねやかもち
歌人別名 少納言, 家持, 越中国守, 大伴家持, 守, 少納言, 大帳使, 家持, 主人 / せうなごん, やかもち
歌体 短歌
時代区分 第4期
部立 なし
季節
補足 大伴家持/おほとものやかもち/大伴家持
詠み込まれた地名 越中 / 富山
関連地名 【故地名】射水の郡
【故地名読み】いみずのこおり
【現在地名】富山県
【故地説明】越中国(富山県)の郡名。現在の射水郡の他、高岡市、氷見市を含んでいた。
【故地名】須加の山
【故地名読み】すかのやま
【現在地名】富山県高岡市
【故地説明】越中国射水郡内、所在未詳。国庁(富山県高岡市)付近の山か。須賀野は小矢部川左岸、高岡市国吉地内の岡田・岩坪・細池・四十九・手洗町・裏答野島あたり。
【故地名】古江の村
【故地名読み】ふるえのむら
【現在地名】富山県氷見市
【故地説明】富山県氷見市神代・古江など一帯の地。二上山北麓。かつての布勢の水海の南岸にあたる。
【地名】須加の山
【現在地名】現在の富山県高岡市国吉の頭川山東南の山地がそれに擬せられている。