歌詳細

天皇の敷きます国の天の下四方の道には馬の爪い尽くす極み船の舳のい泊つるまでに古よ今の現に万調奉るつかさと作りたるその生業を雨降らず日の重なれば植ゑし田も蒔きし畑も朝ごとに凋み枯れ行くそを見れば心を痛みみどり子の乳乞ふがごとく天つ水仰ぎてそ待つあしひきの山のたをりにこの見ゆる天の白雲海神の沖つ宮辺に立ち渡りとの曇りあひて雨も賜はね

項目 内容
番号 18-4122
漢字本文(題詞) 天平感寶元年閏五月六日以来、起小旱、百姓田畝稍有凋色也。
至于六月朔日、忽見雨雲之氣。仍作雲歌一首〔短歌一絶〕
漢字本文 須売呂伎能之伎麻須久尒能安米能之多四方能美知尒波宇麻乃都米伊都久須伎波美布奈乃倍能伊波都流麻泥尒伊尒之敝欲伊麻乃乎都頭尒万調麻都流都可佐等都久里多流曽能奈里波比乎安米布良受日能可左奈礼婆宇恵之田毛麻吉之波多氣毛安佐其登尒之保美可礼由苦曽乎見礼婆許己呂乎伊多美弥騰里児能知許布我其登久安麻都美豆安布芸弖曽麻都安之比奇能夜麻能多乎里尒許能見油流安麻能之良久母和多都美能於枳都美夜敝尒多知和多里等能具毛利安比弖安米母多麻波祢
読み下し文(題詞) 天平感宝元年閏五月六日以来、小旱を起りて、百姓の田畝稍く凋める色あり。
六月朔日に至りて、忽ちに雨雲の気を見る。よりて作れる雲の歌一首〔短歌一絶〕
読み下し文 天皇の敷きます国の天の下四方の道には馬の爪い尽くす極み船の舳のい泊つるまでに古よ今の現に万調奉るつかさと作りたるその生業を雨降らず日の重なれば植ゑし田も蒔きし畑も朝ごとに凋み枯れ行くそを見れば心を痛みみどり子の乳乞ふがごとく天つ水仰ぎてそ待つあしひきの山のたをりにこの見ゆる天の白雲海神の沖つ宮辺に立ち渡りとの曇りあひて雨も賜はね
訓み すめろきのしきますくにのあめのしたよものみちにはうまのつめいつくすきはみふなのへのいはつるまでにいにしへよいまのをつづによろづつきまつるつかさとつくりたるそのなりはひをあめふらずひのかさなればうゑしたもまきしはたけもあさごとにしぼみかれゆくそをみればこころをいたみみどりごのちこふがごとくあまつみづあふぎてそまつあしひきのやまのたをりにこのみゆるあまのしらくもわたつみのおきつみやへにたちわたりとのぐもりあひてあめもたまはね
現代語訳 天皇が治めておられる国の天下において、四方への道では馬の蹄の到る果てまで、海上では船先をとめる港の果てまで、昔から今までのあらゆる調物の最高のものとして耕作してきた、その農作物なのに、雨の降らない日が重なると、稲を植えた田も、種子を蒔いた畑も、日一日と凋み枯れてゆく。それを見ると心が痛く、赤子が乳を乞うように、天なる恵みの水を仰ぎ待つことだ。あしひきの山の窪みに見える天の白雲よ、海神の沖の宮殿あたりまで立ち渡って、空一面を曇らせて、雨を与えてほしい。
歌人 大伴宿禰家持 / おほとものすくねやかもち
歌人別名 少納言, 家持, 越中国守, 大伴家持, 守, 少納言, 大帳使, 家持, 主人 / せうなごん, やかもち
歌体 長歌
時代区分 第4期
部立 なし
季節
補足 大伴家持/おほとものやかもち/大伴家持
詠み込まれた地名 越中 / 富山
関連地名 【地名】2沖つ宮辺
【現在地名】海神が天候の調節をつかさどるもの、とする考えによる。