歌詳細

あしひきの山坂越えてゆき更る年の緒長くしなざかる越にし住めば大君の敷きます国は都をもここも同じと心には思ふものから語り放け見放くる人目ともしみと思し繁しそこ故に心和ぐやと秋付けば萩咲きにほふ石瀬野に馬だき行きてをちこちに鳥踏み立て白塗の小鈴もゆらにあはせ遣りふりさけ見つつ憤る心の内を思ひ伸べ嬉しびながら枕づく妻屋の内に鳥座結ひ据ゑてそ我が飼ふ真白斑の鷹

項目 内容
番号 19-4154
漢字本文(題詞) 八日、詠白大鷹歌一首〔并短歌〕
漢字本文 安志比奇乃山坂超而去更年緒奈我久科坂在故志尒之須米婆大王之敷座國者京師乎母此間毛於夜自等心尒波念毛能可良語左氣見左久流人眼乏等於毛比志繁曽己由恵尒情奈具也等秋附婆芽子開尒保布石瀬野尒馬太伎由吉氐乎知許知尒鳥布美立白塗之小鈴毛由良尒安波勢也理布里左氣見都追伊伎騰保流許己呂能宇知乎思延宇礼之備奈我良枕附都麻屋之内尒鳥座由比須恵弖曽我飼真白部乃多可
読み下し文(題詞) 八日に、白き大鷹を詠める歌一首〔并せて短歌〕
読み下し文 あしひきの山坂越えてゆき更る年の緒長くしなざかる越にし住めば大君の敷きます国は都をもここも同じと心には思ふものから語り放け見放くる人目ともしみと思し繁しそこ故に心和ぐやと秋付けば萩咲きにほふ石瀬野に馬だき行きてをちこちに鳥踏み立て白塗の小鈴もゆらにあはせ遣りふりさけ見つつ憤る心の内を思ひ伸べ嬉しびながら枕づく妻屋の内に鳥座結ひ据ゑてそ我が飼ふ真白斑の鷹
訓み あしひきのやまさかこえてゆきかはるとしのをながくしなざかるこしにしすめばおほきみのしきますくにはみやこをもここもおやじとこころにはおもふものからかたりさけみさくるひとめともしみとおもひししげしそこゆゑにこころなぐやとあきづけばはぎさきにほふいはせのにうまだきゆきてをちこちにとりふみたてしらぬりのこすずもゆらにあはせやりふりさけみつついきどほるこころのうちをおもひのべうれしびながらまくらづくつまやのうちにとくらゆひすゑてそわがかふましらふのたか
現代語訳 あしひきの山や坂を越えて来て、めぐり来る年月長く、しなざかる越の国に住んでいるので、天皇のお治めになる国土は、都もここも同じだと心では思っているものの、人々と語ったり会ったりすることも遠く稀だと思うと、物思いが絶えない。そこで少しは心が慰められるかと、秋になると萩の花が美しい石瀬野に馬を駆って、あちこちに鳥を追い立て、白銀の小鈴の音さやかに鷹を飛びたたせ、その姿を遠く目で追いながら鬱積した心中を晴らし、それを楽しみつつ、枕づく妻屋の中に鳥屋(とや)を作り据えて飼うことだ。純白の斑文(ふもん)の鷹を。
歌人 大伴宿禰家持 / おほとものすくねやかもち
歌人別名 少納言, 家持, 越中国守, 大伴家持, 守, 少納言, 大帳使, 家持, 主人 / せうなごん, やかもち
歌体 長歌
時代区分 第4期
部立 なし
季節
補足 大伴家持/おほとものやかもち/大伴家持
詠み込まれた地名 越中 / 富山
関連地名 【故地名】石瀬野
【故地名読み】いわせの
【現在地名】富山県高岡市
【故地説明】越中国新川郡(→新川の郡)内、所在未詳。富山県高岡市石瀬一帯(俗称上石瀬・下石瀬・美原町・石瀬本町)の地か。一説に同市東岩瀬(神通川河口付近)。
【故地名】越
【故地名読み】こし
【故地説明】越前・加賀・能登・越中・越後など北陸地方の総称、現在の福井(東部)、石川・富山・新潟の諸県にあたる。
【地名】越:石瀬野
【現在地名】越前・越中・越後三国の総称。:富山県射水郡大門町の北方、高岡市石瀬一帯の地か。