歌詳細

ほととぎす来鳴く五月に咲きにほふ花橘のかぐはしき親の御言朝夕に聞かぬ日まねく天離る鄙にし居ればあしひきの山のたをりに立つ雲をよそのみ見つつ嘆くそら安けなくに思ふそら苦しきものを奈呉の海人の潜き取るとふ真珠の見が欲し御面直向ひ見む時までは松柏の栄えいまさね尊き我が君〔御面みおもわといふ〕

項目 内容
番号 19-4169
漢字本文(題詞) 為家婦贈在京尊母、所誂作歌一首〔并短歌〕
漢字本文 霍公鳥来喧五月尒〓尒保布花橘乃香吉於夜能御言朝暮尒不聞日麻祢久安麻射可流夷尒之居者安之比奇乃山乃多乎里尒立雲乎余曽能未見都追嘆蘇良夜須家奈久尒念蘇良苦伎毛能乎奈呉乃海部之潜取云真珠乃見我保之御面多太向将見時麻泥波松栢乃佐賀延伊麻佐祢尊安我吉美〔御面謂之美於毛和〕
読み下し文(題詞) 家婦の京に在す尊母に贈らむがために、誂へられて作れる歌一首〔并せて短歌〕
読み下し文 ほととぎす来鳴く五月に咲きにほふ花橘のかぐはしき親の御言朝夕に聞かぬ日まねく天離る鄙にし居ればあしひきの山のたをりに立つ雲をよそのみ見つつ嘆くそら安けなくに思ふそら苦しきものを奈呉の海人の潜き取るとふ真珠の見が欲し御面直向ひ見む時までは松柏の栄えいまさね尊き我が君〔御面みおもわといふ〕
訓み ほととぎすきなくさつきにさきにほふはなたちばなのかぐはしきおやのみことあさよひにきかぬひまねくあまざかるひなにしをればあしひきのやまのたをりにたつくもをよそのみみつつなげくそらやすけなくにおもふそらくるしきものをなごのあまのかづきとるとふしらたまのみがほしみおもわただむかひみむときまではまつかへのさかえいまさねたふときあがきみ〔みおもわはみおもわといふ〕
現代語訳 霍公鳥がやって来て鳴く五月に美しく咲く橘の花のようにかぐわしい親のおことばを、聞かない日も多く天離る夷にいるので、あしひきの山の窪みに立つ雲を外ながら眺めつつ、嘆息をつく身も安らかならず、物思いする身も辛いものを。奈呉の海の漁師が水にもぐってとるという真珠のように見たいと願うお顔を、じかに拝見する日までは、松柏の如く栄えておいでください。尊い母君よ。
歌人 大伴宿禰家持 / おほとものすくねやかもち
歌人別名 少納言, 家持, 越中国守, 大伴家持, 守, 少納言, 大帳使, 家持, 主人 / せうなごん, やかもち
歌体 長歌
時代区分 第4期
部立 なし
季節
補足 大伴家持/おほとものやかもち/大伴家持
詠み込まれた地名 越中 / 富山
関連地名 【故地名】奈呉
【故地名読み】なご
【現在地名】富山県新湊市
【故地説明】富山県高岡市伏木と小矢部川(もとの射水川)をはさんで東方の新湊市の西部海浜および放生津一帯の地。
【地名】奈呉
【現在地名】富山県新湊市の放生津干潟の名称。