歌詳細

思ふどちますらをの木の暗繁き思ひを見明らめ心遣らむと布勢の海に小船つら並めま櫂掛けい漕ぎ巡れば乎布の浦に霞たなびき垂姫に藤波咲きて浜清く白波騒きしくしくに恋は増されど今日のみに飽き足らめやもかくしこそいや年のはに春花の繁き盛りに秋の葉のもみちの時にあり通ひ見つつしのはめこの布勢の海を

項目 内容
番号 19-4187
漢字本文(題詞) 六日、遊覧布勢水海作歌一首〔并短歌〕
漢字本文 念度知大夫能許乃久礼繁思乎見明良米情也良牟等布勢乃海尒小船都良奈米真可伊可氣伊許藝米具礼婆乎布能浦尒霞多奈妣伎垂姫尒藤浪咲而濱浄久白波左和伎及〻尒戀波末左礼杼今日耳飽足米夜母如是己曽弥年乃波尒春花之繁盛尒秋葉能黄色時尒安里我欲比見都追思努波米此布勢能海乎
読み下し文(題詞) 六日に、布勢の水海を遊覧して作れる歌一首〔并せて短歌〕
読み下し文 思ふどちますらをの木の暗繁き思ひを見明らめ心遣らむと布勢の海に小船つら並めま櫂掛けい漕ぎ巡れば乎布の浦に霞たなびき垂姫に藤波咲きて浜清く白波騒きしくしくに恋は増されど今日のみに飽き足らめやもかくしこそいや年のはに春花の繁き盛りに秋の葉のもみちの時にあり通ひ見つつしのはめこの布勢の海を
訓み おもふどちますらをのこのこのくれしげきおもひをみあきらめこころやらむとふせのうみにをぶねつらなめまかいかけいこぎめぐればをふのうらにかすみたなびきたるひめにふぢなみさきてはまきよくしらなみさわきしくしくにこひはまされどけふのみにあきだらめやもかくしこそいやとしのはにはるはなのしげきさかりにあきのはのもみちのときにありがよひみつつしのはめこのふせのうみを
現代語訳 親しい者どうし、ますらお達の木の下闇のように繁くある物思いを、眺めてはすっきりさせ、心を晴らそうと、布勢の海に小舟をつらね並べ、両舷に櫂をとりつけて漕ぎめぐると、乎布の浦には霞がたなびき、垂姫には藤波が咲き、浜も清らかに白波が立っている。その波のようにしきりに恋心はつのるのだが、どうして今日の遊びだけで満足しよう。このように一層年ごとに、春は花のあふれ咲く盛り、秋は葉葉のもみじする時に、通いつづけて見ながら愛(め)でよう。この布勢の海を。
歌人 大伴宿禰家持 / おほとものすくねやかもち
歌人別名 少納言, 家持, 越中国守, 大伴家持, 守, 少納言, 大帳使, 家持, 主人 / せうなごん, やかもち
歌体 長歌
時代区分 第4期
部立 なし
季節
補足 大伴家持/おほとものやかもち/大伴家持
詠み込まれた地名 越中 / 富山
関連地名 【故地名】垂姫
【故地名読み】たるひめ
【現在地名】富山県氷見市
【故地説明】(1)布勢の水海南岸の地であった富山県氷見市大浦付近か。同市園の丘陵地の西麓小字耳浦にもとの垂姫神社にあたる権現社がある。

(2)高岡市堀田日ノ宮神社はその旧跡か。

→布勢の水海
【故地名】布勢の水海
【故地名読み】ふせのみずうみ
【現在地名】富山県氷見市
【故地説明】富山県氷見市の上田子・下田子・窪・神代・布施・十二町などの諸地でかつて囲まれていた湖水。いまわずかに帯状の十二町潟水郷公園にそのなごりをとどめる。
【故地名】布勢の海
【故地名読み】ふせのうみ
【現在地名】富山県氷見市
【故地説明】富山県氷見市の上田子・下田子・窪・神代・布施・十二町などの諸地でかつて囲まれていた湖水。いまわずかに帯状の十二町潟水郷公園にそのなごりをとどめる。
【故地名】乎布の浦
【故地名読み】おうのうら
【現在地名】富山県氷見市
【故地説明】富山県氷見市窪・園付近の地。布勢の水海の南岸、二上山の裾が半島状に突き出たあたり。→布勢
【地名】布勢の海:乎布の浦
【現在地名】富山県氷見市南部にかつてあった湖水。:富山県氷見市窪・園の辺に当るか。