歌詳細

なゆ竹のとをよる皇子さ丹つらふわご大王はこもりくの初瀬の山に神さびに斎きいますと玉梓の人そ言ひつる逆言かわが聞きつる狂言かわが聞きつるも天地に悔しき事の世間の悔しきことは天雲のそくへの極み天地の至れるまでに杖策きも衝かずも行きて夕占問ひ石占もちてわがやどに御諸を立てて枕辺に斎瓮をすゑ竹玉を間なく貫き垂れ木綿たすきかひなに懸けて天にあるささらの小野の七節菅手に取り持ちてひさかたの天の川原に出で立ちてみそきてましを高山の巌の上にいませつるかも

項目 内容
番号 3-420
漢字本文(題詞) 石田王卒之時、丹生王作歌一首〔并短歌〕
漢字本文 名湯竹乃十縁皇子狭丹頬相吾大王者隠久乃始瀬乃山尒神左備尒伊都伎坐等玉梓乃人曽言鶴於余頭礼可吾聞都流狂言加我聞都流母天地尒悔事乃世間乃悔言者天雲乃曽久敞能極天地乃至流左右二杖策毛不衝毛去而夕衢占問石卜以而吾屋戸尒御諸乎立而枕邊尒齋戸乎居竹玉乎無間貫垂木綿手次可比奈尒懸而天有左佐羅能小野之七相菅手取持而久堅乃天川原尒出立而潔身而麻之乎高山乃石穂乃上尒伊座都類香物
読み下し文(題詞) 石田王の卒りし時に、丹生王の作れる歌一首〔并せて短歌〕
読み下し文 なゆ竹のとをよる皇子さ丹つらふわご大王はこもりくの初瀬の山に神さびに斎きいますと玉梓の人そ言ひつる逆言かわが聞きつる狂言かわが聞きつるも天地に悔しき事の世間の悔しきことは天雲のそくへの極み天地の至れるまでに杖策きも衝かずも行きて夕占問ひ石占もちてわがやどに御諸を立てて枕辺に斎瓮をすゑ竹玉を間なく貫き垂れ木綿たすきかひなに懸けて天にあるささらの小野の七節菅手に取り持ちてひさかたの天の川原に出で立ちてみそきてましを高山の巌の上にいませつるかも
訓み なゆたけのとをよるみこさにつらふわごおほきみはこもりくのはつせのやまにかむさびにいつきいますとたまづさのひとそいひつるおよづれかわがききつるたはごとかわがききつるもあめつちにくやしきことのよのなかのくやしきことはあまぐものそくへのきはみあめつちのいたれるまでにつゑつきもつかずもゆきてゆふけとひいしうらもちてわがやどにみもろをたててまくらへにいはひべをすゑたかだまをまなくぬきたれゆふたすきかひなにかけてあめにあるささらのをののななふすげてにとりもちてひさかたのあめのかはらにいでたちてみそぎてましをたかやまのいはほのうへにいませつるかも
現代語訳 なよ竹のようにしなやかな皇子、丹の頬も美しいわが大君は、隠り国の初瀬の山に神々しくお祭り申し上げていると、玉梓の使いの者が言ったことだ。不吉なことばをわたしが聞いたのか。たわけたことばをわたしが聞いたのか。天地の間で残念なことで、この世で残念なことは、天雲の流れゆく極みまで、天地の到りつく果てまで、杖をつこうとつくまいとどうしても出かけていって、夕方の道に占い、石でも占ったりして、わが家に神を招く御諸を立て、枕元に神酒を入れたかめを据え、竹玉をたくさん垂らし、木綿のたすきを腕にかけて、天上にあるというささらの小野の七節の菅を手に取り持ち、遥か彼方の天の川原にまで行ってこの身を清めるべきだったのに…高い山奥の巖の上におまつり申し上げてしまったことだ。
歌人 丹生王 / にふのおほきみ
歌体 長歌
時代区分 不明
部立 挽歌
季節 なし
補足 丹生王/にふのおほきみ/丹生王
詠み込まれた地名 不明 / 不明
関連地名 【故地名】佐佐羅の小野
【故地名読み】ささらのおの
【故地説明】天上にあるという伝説上の野。なお、奈良県山辺郡内、香具山付近などとする説がある。
【故地名】泊瀬の山
【故地名読み】はつせのやま
【現在地名】奈良県桜井市
【故地説明】泊瀬地方の山の総称。初瀬の町の西北にある初瀬山(548メートル)のみならず初瀬川沿いの諸峰。
【地名】泊瀬の山:2ささらの小野:2天の河原
【現在地名】奈良県桜井市初瀬の地の山:天にあると信じられていた野の名:高天原にあるといわれる安の河原