歌詳細

白たへの袖さし交へて靡き寝るわが黒髪のま白髪に成りなむ極み新世に共にあらむと玉の緒の絶えじい妹と結びてし言は果たさず思へりし心は遂げず白たへの手本を別れにきびにし家ゆも出でてみどり子の泣くをも置きて朝霧のおぼになりつつ山城の相楽山の山の際に行き過ぎぬれば言はむすべせむすべ知らに吾妹子とさ寝し妻屋に朝には出で立ち思ひ夕には入り居嘆かひわき挟む子の泣くごとに男じもの負ひみ抱きみ朝鳥の哭のみ泣きつつ恋ふれども験を無みと言問はぬものにはあれど吾妹子が入りにし山をよすかとそ思ふ

項目 内容
番号 3-481
漢字本文(題詞) 悲傷死妻作歌一首〔并短歌〕
漢字本文 白細之袖指可倍弖靡寐吾黒髪乃真白髪尒成極新世尒共将有跡玉緒乃不絶射妹跡結而石事者不果思有之心者不遂白妙之手本矣別丹杵火尒之家従裳出而緑兒乃哭乎毛置而朝霧髪髴為乍山代乃相樂山乃山際徃過奴礼婆将云為便将為便不知吾妹子跡左宿之妻屋尒朝庭出立偲夕尒波入居嘆會腋挟兒乃泣毎雄自毛能負見抱見朝鳥之啼耳哭管雖戀効矣無跡辞不問物尒波在跡吾妹子之入尒之山乎因鹿跡叙念
読み下し文(題詞) 死りし妻を悲傷びて作れる歌一首〔并せて短歌〕
読み下し文 白たへの袖さし交へて靡き寝るわが黒髪のま白髪に成りなむ極み新世に共にあらむと玉の緒の絶えじい妹と結びてし言は果たさず思へりし心は遂げず白たへの手本を別れにきびにし家ゆも出でてみどり子の泣くをも置きて朝霧のおぼになりつつ山城の相楽山の山の際に行き過ぎぬれば言はむすべせむすべ知らに吾妹子とさ寝し妻屋に朝には出で立ち思ひ夕には入り居嘆かひわき挟む子の泣くごとに男じもの負ひみ抱きみ朝鳥の哭のみ泣きつつ恋ふれども験を無みと言問はぬものにはあれど吾妹子が入りにし山をよすかとそ思ふ
訓み しろたへのそでさしかへてなびきぬるわがくろかみのましらかになりなむきはみあらたよにともにあらむとたまのをのたえじいいもとむすびてしことははたさずおもへりしこころはとげずしろたへのたもとをわかれにきびにしいへゆもいでてみどりごのなくをもおきてあさぎりのおぼになりつつやましろのさがらかやまのやまのまにゆきすぎぬればいはむすべせむすべしらにわぎもことさねしつまやにあしたにはいでたちしのひゆふへにはいりゐなげかひわきはさむこのなくごとにをとこじものおひみむだきみあさどりのねのみなきつつこふれどもしるしをなみとこととはぬものにはあれどわぎもこがいりにしやまをよすかとそおもふ
現代語訳 白妙の袖を交わし、寄りそって寝るこの黒髪がまっ白になるだろう時まで、新しい気持ちで一緒にいようと、玉の緒のように末長く仲の絶えない妻よと、愛を誓った言葉にそむいて、心の思いも十分果たさずに、妻は白妙の腕を解いて、親しみあった家を出て、幼な子が泣くのも置いて、朝霧のようにぼんやりと薄れつつ、山城の相楽の山のあたりに姿を消してしまったので、言いようもしようもなく、妻とともに寝た妻屋で、朝には外に出で立って妻を偲び、夕には中に入り座りこんで嘆き、脇にかかえる子が泣くたびに男らしくもなく背負ったり抱いたりしながら、朝鳴く鳥のように泣きながら妻を恋い慕うのだが何も変わらないので、物を言わぬものではあるが、妻の入っていった山を形見として偲ぶことだ。
歌人 高橋朝臣 / たかはしのあそみ
歌人別名 奉膳之男子, 奉膳之男子 / かしはでのをのこ
歌体 長歌
時代区分 第4期
部立 挽歌
季節
補足 高橋朝臣/たかはしのあそみ/高橋
詠み込まれた地名 不明 / 不明
関連地名 【故地名】相楽山
【故地名読み】さがらかやま
【現在地名】京都府相楽郡
【故地説明】京都府木津川町相楽の地の山か。あるいは相楽郡の山々を総称したもの。
【故地名】山背
【故地名読み】やましろ
【現在地名】京都府
【故地説明】国名。京都府の南部、京都・宇治・城陽・京田辺の四市及び乙訓・久世・綴喜・相楽の諸郡をいう。
【地名】相楽山
【現在地名】京都府相楽郡の山々を総称したもの